キャリア形成

Carrier

「主体的なキャリア形成」って誰のため?

「自分の人生」という船、オールは誰が?

突然ですが、TOKIO長瀬智也さんの歌声が好きです。単純にその理由だけで『宙船(そらふね)』という歌もよく聴いていました。

”その船を漕いでゆけ お前の手で漕いでゆけ
お前が消えて喜ぶ者にお前のオールを任せるな”

(TOKIO『宙船』/作詞・作曲:中島みゆき/2006) 

ある時、自分のキャリアや人生について考えているときに聴いていたら、突然「この歌は主体的なキャリア形成の歌だ!」「”その船”は自分の人生のことなのか!」と思いつき興奮しました。

もちろん真意はわかりません。しかし私の解釈は「主体的なキャリア形成の歌」となったのです。

VUCAの時代における「主体的なキャリア形成」

では「主体的なキャリア形成」とはいったい誰のためのものなのでしょうか。

私が社会に出た30年前は「キャリアは会社に委ねるもの」という認識でした。こうしたキャリア観は高度経済成長期に働く人・働き方に適したもので、入社したら定年までその会社で勤めあげることが前提となっています。

この場合には社内の異動や昇格によりキャリアが形成されていくため、会社が社員のキャリア形成について設計する必要がありました。役職が上がるに伴ってキャリアアップを実感し、キャリアアップと共に地位や待遇が上昇していきます。つまり自分のキャリアの主導権が「組織」にあったのです。

そうしたキャリア観では「組織内におけるポジション」が非常に重要となるため、組織内での立場や人間関係を考えながら何をすべきかを考えることが重要とされてきました。

そして現在は「VUCAの時代」。

”変動性・不確実性・複雑性・曖昧性”という4つの要素により将来の予測が困難な状況にあります。環境の変化が激しく、安定していると思われていた業界でさえ大量リストラが始まるなど、5年後10年後の未来さえも定かではありません。終身雇用や年功序列が過去のものになりつつあり、もはや組織が従業員のキャリアを設計することは不可能になってきました。

働く人からみても勤労観は多様化し、各人が抱えている事情もさまざまです。同じ会社でいつまで働くのか本人でも明言できない今の時代においては、自分自身でキャリアを切り拓いていく必要があります。まさに「主体的なキャリア形成」が必要なのです。

したがって、「主体的なキャリア形成」は、自分自身が現代を生きていくために必要、ということです。

もちろん、組織にとっても従業員自らのスキルアップ/キャリアアップを積極的にサポートすることで、メンバーの帰属意識が高まり、組織全体の意識向上/パフォーマンス向上へとつながります。

プロティアン・キャリア~変幻自在なキャリア

主体的なキャリア形成といっても、どのような方向を目指していけばよいのでしょうか。

VUCAの時代においては、キャリア形成に正解はなく、あらゆる変化に柔軟に対応する「変幻自在なキャリア(プロティアン・キャリア)形成」が必要だと考えられています。

「プロティアン・キャリア」とはアメリカの心理学者ダグラス・ホールによって提唱されたキャリア理論です。

「プロティアン(Protean)」はギリシア神話に出てくる、思いのままに姿を変えられる神プロテウスが語源となっており、「変幻自在な」「多方面の」と訳されます。組織内での成長や成功に重きを置いた従来のキャリアにかわり、地位や給与ではなく自己成長や気づきといった心理的成功を目指します。

この”依存でも独立でもない変幻自在なキャリア”は、人と関わることによって模索し、形成することができます。組織内の対話や組織内の評価よりも組織外との関わりや市場評価を大切にすることが特徴です。

このキャリア観においてキャリア形成の主導権は「個人」にあり、「自分自身」にあります。まさに「自分の船のオールを持つのは自分自身」なのです。

プロティアン・キャリアを説いたホールは、2つのコンピテンシーを打ち出しています。

・アイデンティティ(自己認識、独自性)

・アダプタビリティ(適応能力)

の2つです。

ただただ環境に流され、振り回されて適応するのではなく、主体的に自分のキャリアを変形させるのがプロティアン・キャリア。

従来のキャリアは、組織の中での地位や給与といった客観的で定量的な指標が到達すべき目標だったのに対し、個人の中で感じられる仕事の充実感を成功指標と捉え、「自分は何をしたいのか」「社会に対し何ができるのか」という自己への意味づけが重要である、という考え方です。

さあ、組織として何をすべきなのでしょうか。

そして個人として何をすべきでしょうか。

これからご一緒に考えていきましょう。